認知症の事例(軽度)

モデルケース H郎さんの場合

この事例は複数の事例を組み合わせるなどして構成したものであり、実際の事例とは名称、年齢、地名等は異なります。

H郎さん(85歳)は、妻に先立たれ、現在、東京の自宅で一人暮らしをしています。

ある日、遠方に嫁いだ娘のK子さんがH郎さんの自宅を訪ねたところ、大量の健康食品が山積みになって置かれていました。驚いたK子さんが尋ねると、H郎さんは「誰かは忘れてしまったけど、親切な方が僕の健康を心配して売ってくれた」と言いました。H郎さんは、どうやら悪徳商法の被害に遭ってしまったようでした。

K子さんは父親の日々の生活が心配になり、「成年後見制度を利用してはどうか」とH郎さんに提案しました。K子さんが制度について説明したところ、「最近、物忘れがひどくなって、自分でも不安になることがある。そういう制度を利用できれば安心だ」と言って、H郎さんも成年後見制度の利用に同意しました。

らいさぽの対応

主治医から、H郎さんは「殆どのことは一人でも判断できるが、難しいことは誰かに支援してもらうことが望ましい」ということで「補助相当」と診断されました。そこでK子さんは、家庭裁判所にH郎さんの「補助開始の審判の申立て」とともに「同意権付与の審判の申立て」を行い、万一、H郎さんが悪徳商法被害に遭っても、補助人がその契約を取り消すことができるようにしました。また、K子さんは遠方に住んでいて父H郎さんの元にはめったに来られず、自分が成年後見人等に就任することは難しいと考え、ライフサポート東京にH郎さんの「成年後見人等候補者」になってもらうことにしました。

ライフサポート東京がH郎さんの補助人に選任され、頼佐保太さんが補助事務担当者に就任してから数か月が経過しました。その間、頼佐保太さんはH郎さんの自宅を何度も訪問し、すっかり仲良くなっていました。
ある日、頼佐保太さんは、H郎さんの居間に大きなステレオが設置されたことに気づきました。どうやらH郎さんは、高額なステレオを購入したようでした。

頼佐保太さんが話を聞くと、H郎さんは「僕は音楽を聴くことが趣味。大好きなクラシックを、大きなステレオで、迫力のある音で聴きたいと思い、近所の電気屋さんから購入した」と言いました。
補助人であるライフサポート東京は、補助人の同意なしに締結された売買契約を取り消すことができます。しかし頼佐保太さんは、今回H郎さんは悪徳商法に引っかかった訳ではなく、自らの意思でステレオを購入し、またH郎さんの家計からみて、代金を支払っても問題がないと思われることから、この売買契約を取り消さずに、認めるのが良いと判断しました。

その後

H郎さんは、自分らしい生活や人生が続けられるよう補助人に支援されるとともに、万一、悪徳商法の被害に遭ったり、判断能力の低下により不当な契約を締結してしまったりした場合には、成年後見制度によってそれを取り消してもらえるという「お守り」を手に入れたのでした。

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