認知症の事例(軽度)
モデルケース 鈴木一郎さんの場合
鈴木一郎さん(85歳)は、妻に先立たれ、現在、東京の自宅で一人暮らしをしています。ある日、遠方に嫁いだ娘の和子さん(55歳)が一郎さんの自宅を訪ねたところ、大量の健康食品が山積みになって置かれていました。驚いた和子さんが尋ねると、一郎さんは「誰かは忘れてしまったけど、親切な方が僕の健康を心配して売ってくれた」と言いました。一郎さんは、どうやら悪徳商法の被害に遭ってしまったようでした。
和子さんは、一郎さんの今後のことが心配になり成年後見制度を利用することにしました。和子さんが一郎さんに成年後見制度を説明したところ、一郎さんは「最近、物忘れがひどくなって、自分でも不安になることがある。そういう制度を利用していれば安心だ」と言って、成年後見制度の利用に同意してくれました。
らいさぽの対応

主治医から、一郎さんは「ほとんどのことは一人でも判断できるが、難しいことは誰かに支援してもらうことが望ましい」ということで「補助相当」と診断されました。そこで和子さんは、家庭裁判所に対し、一郎さんの「補助開始の審判の申立て」とともに「同意権付与の審判の申立て」を行い、万一、一郎さんが悪徳商法被害に遭っても、補助人がその契約を取り消すことができるようにしました。
また、遠方に住む自分が成年後見人等に就任することは負担が大きいと思い、ライフサポート東京に一郎さんの「成年後見人等候補者」になってもらうことにしました。
ライフサポート東京が一郎さんの補助人に選任され、頼佐保太さんが後見事務担当者に就任してから数か月が経過しました。その間、頼佐保太さんは一郎さんの自宅を何度も訪問し、世間話をしたり、困りごと相談にのったりして、すっかり仲良くなっていました。ところが、ある日、頼佐保太さんが一郎さんの自宅を訪問した際、大きなステレオが置いてあることに気づきました。どうやら一郎さんは、補助人の同意を得ないで、高額なステレオを購入したようでした。
頼佐保太さんが話を聞いたところ、一郎さんは「音楽を聴くことが趣味なので、迫力のある大きなステレオで大好きなクラシックを聴きたいと思い、近所の電気屋さんから購入しました」と言いました。法律上、補助人であるライフサポート東京は、補助人の同意を得ないで締結された売買契約を取り消すことができます。しかし、頼佐保太さんは、一郎さんが悪徳商法に引っかかったのではなく、自らの意思で購入した点、また一郎さんの家計を考えたうえで、代金を支払っても問題がないと思われる点から、この売買契約を取り消さずに、認めるのが良いと判断しました。
その後
一郎さんは、大きな買い物をする場合には、頼佐保太さんに相談してアドバイスをもらうようになりました。一郎さんは成年後見制度を利用したことにより、自分らしい生活、人生を送ることができるよう補助人に支援してもらえるとともに、万一、悪徳商法の被害に遭ったり、判断能力の低下により不当な契約を締結してしまったりした場合には、それを取り消してもらえるという「お守り」を手に入れたのでした。
この事例は複数の事例を組み合わせるなどして構成したものであり、実際の事例とは名称、年齢、地名等は異なります。
